『蒙求』偽善もまた善である

後漢の張湛(ちょうたん)という人は、謹厳で礼を好み、動きの一つ一つにも決まりがあった。

一人静かにしている時でも、きちんとしており、妻子に対しても威厳をもって接していた。

また、地域の誰に対しても、礼儀正しく接して言動にも配慮していたので、張湛の出身地である三輔地方では、彼を手本と考えていた。

しかし、彼を批判する人もいた。

「あれは、人からよく思われたいがためにやっているのだ。偽善者だ」、と。

それに対して、張湛は、こう言った。

「多くの人は悪をなして、それを隠そうと偽っている。私は善をなして、さらに善を求めようと偽っている。それでよいではないか」

確かに、善人の真似をすれば善人だし、悪人の真似をすれば悪人になると言われている。

悪人ぶるよりも善人ぶる方が、善に近いことは確かであろう。

出典 (明治書院)新釈漢文大系58 『蒙求 上』早川光三郎著 480頁

張湛白馬 後漢張湛字子孝、扶風平陵人。矜嚴好禮、動止有則。居幽室必修整。遇妻子若嚴君。在鄕黨、詳言正色。三輔以爲儀表。人或謂湛爲僞詐。湛曰、人皆詐惡。我獨詐善。不亦可乎。