『淮南子」相互依存関係

部下が思うように動いてくれないと、嘆くリーダーは多い。

しかし、考えなければならないことは、何故、部下はリーダーの指示通り動かなければならないか、ということである。

上司と部下の関係だから、言うことをきくのが当然だという意見もあるだろう。

しかし、それでは表面だけ従っているということである。

上司と部下の関係は、よくよく考えてみれば、相互依存の関係である。

つまり、お互いに何かを与えなければ、その関係はうまくいかない。

このことは、今の時代が世知辛いからという話ではなく、大昔からそうである。

よく、「主君のために死す」などというが、それは長年の恩顧を蒙っていたり、死んだ後に家族を養ってくれたりするからである。

何も無いのに、ただ相手が主君だからといって自分を犠牲にするのは、極々稀である。

『淮南子(えなんじ)』には、こう書いてある。

風が吹けば波が立ち、木が茂れば鳥が集まる。これがお互いさまということである。

これと同じように、臣下がその君主から欲しいものを得ることが出来ないのであれば、君主も、その求めるものを臣下から得ることは出来ない。

君主と臣下の関係は、お互いに施し合う関係である。

臣下は君主のために死力を尽くし、君主は臣下の功績に報いる。

つまり、君主は、功績の無い臣下に報いることはない。

また、臣下は、功績を報いてくれない君主のために、死力を尽くすことはしない、と。

ただ、ここで難しいのは、どうやって報いるかということである。

オーナー経営者であれば、給料を上げたり、地位を上げたりということも、簡単かもしれない。

しかし、普通の中間管理職には、そのような権限はない。

それでは、全ての中間管理職が、部下を統御出来ていないかといえば、決してそんなことはない。

見事なリーダーシップを奮っている管理職は沢山いる。

そういった管理職は、金でもなく地位でもないが、何かを報いているのである。

だから、部下は、一生懸命尽くそうとするのであろう。

この部下に対して報いる何かというものは、決まった何かではなく、人によって様々だと思う。

励ましの暖かい言葉かもしれない。

技術や仕事の仕方を教えてあげるということかもしれない。

働きやすい環境作りかもしれない。

適切なアドバイスかもしれない。

えこ贔屓をしない公平な態度や姿勢かもしれない。

素早い判断かもしれない。

あえて一言で言えば、部下の立場を理解した、きちんとしたマネジメントを行なっているかどうかに、尽きるのかもしれない。

そして、このことを、古い言葉で言えば、「徳」であり「仁」である、ということになるのであろう。

部下の努力に対しては、「ありがとう」と感謝の言葉を述べなさい、と教えられたことがある。

これはこれで良いことだと思う。 しかし、リーダーとして目指すべきは、部下から「ありがとうございます」と言われるマネジメントではないか、と思う。