『箸休め』正義とは

ロンドンのシティに勤めるある男のアパートメントの前に、乞食がいた。

その男は、毎朝出勤する時に、その乞食に1ポンドを恵んでいた。

乞食は、施しを受ける度に、「ありがとうございます」と心から礼を言い、深々と頭を下げるのであった。

恒例行事のように、この光景は数年にわたって続いた。

しかし、男の勤める会社は金融不況で業績が悪化し、男の羽振りにも影がさすようになった。ついには、1ポンドの金も惜しくなってきた。

ある日、男は乞食に施しをせずに、アパートメントを出ようとした。

乞食は、驚き、声をかけた。「だんな様、今日の分がまだなのですが?」

男は、応えた。「すまないな。最近、景気が悪いんだよ。これからは当てにしないでもらえるかな」

乞食は、憤然として、こう言った。「それはあんたの都合だろう!自分の都合を人に押し付けるなんて、それでも紳士と言えるのかい!」

正義は、立場によって入れ替わるのであろう。