「上下、欲を同じくするものは勝つ」と言われる。
確かに、組織と個人の目標が一致し、リーダーとメンバーの目指す方向が統合されていれば、大きな成果を生むであろう。
しかし、そのようなことは無理だと、韓非子は言う。
そもそも、上下の利害は矛盾しているというのである。
組織は、能力ある人材に高い地位に就いてもらい、力を発揮して貰いたいと考える。
しかし、社員は能力が低くても偉くなりたいと願っている。
組織は、高い功績をあげた者に高い報酬を与えたいと考えている。
しかし、社員は常に功績以上の待遇を求めている。
違う表現をすれば、ほとんどの人は、自分の能力と功績を実際よりも高めに考えるものであり、能力と功績に見合った処遇を受けていないと、不満を感じていることが多い。
社員としての立場と経営者としての立場の両方を経験して、この韓非子の主張には説得力を感じる。
人間という生き物の、ある種の本質を見抜いていると思う。
しかし、人という生き物が、果たしてそれでいいのかという疑問もまた、生じてくる。
出典 (明治書院)新釈漢文大系11『韓非子 上』竹内照夫著141頁
孤憤第十一
臣主之利相與異者也、何以明之哉。曰、主利在有能而任官、臣利在無能而得事。主利在有勞而爵祿、臣利在無功而富貴。 臣主の利は相與に異る者なり、何を以て之を明らかにするか。曰く、主の利は能有るものにして官に任ずるに在り、臣の利は能無くして事(つとめ)を得るに在り。主の利は勞有りて爵祿せらるるに在り、臣の利は功無くして富貴なるに在り。 \lsdprior