馬鹿な指揮官、敵より怖い

「馬鹿な大将、敵より怖い」という言い方もある。

調べてみると、この言い方の場合は旧日本陸軍で悪名高い牟田口廉也に対する罵りの言葉らしい。

ただ、牟田口は失敗したインパール作戦の時も、終戦時も中将であるから、大将という言い方は当らない。

ともあれ、兵隊というものは、自分たちの命がその指揮官次第であることを良く分かっていた。

馬鹿な指揮官についたときは悲惨な死を迎えなければならないし、優秀な指揮官の下では命を全うする確率が高い。

であるから、あの大隊長はいいとか、あの連隊長はとんでもないといった兵隊同士の噂話は正確だったという。

そして、悲しいかな、旧日本陸軍には馬鹿な指揮官が多かったようである。

ノモンハン事件でのソ連側の指揮官であったゲオルギー・ジューコフ(後にソ連軍最高司令官・国防大臣・元帥)は、

「日本軍の下士官兵は頑強で勇敢であり、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが、高級将校は無能である」と述べている。

ビジネスの世界では命まで取られることはないが、やはり、優秀なリーダーの下で働くかそうでないかは、大きな違いになる。

四十を越す店舗を持っているある会社がある。この会社の店舗には、小さいところでも二十名、大きいところでは四十名程度の社員が働いている。四十以上もあると、当然、業績が良いところもあれば悪いところもある。

この業績が、店長一人が変わるだけで、ガラッと変わる。

二年も三年も好業績を上げ続けていた店舗が店長交代と同時に急に大不振に陥ったり、赤字を垂れ流していた店舗がまたたく間に黒字転換を果たしたりする。

業績が良くなることはいいが、店のトップ一人が変わったくらいで、悪くなるのは何事かと思うが、現実にそうなるのだから仕方がない。

以前に教育の仕事でお手伝いをさせて頂いたマルハンでも、同じ話を聞いた。パチンコ店は一種の設備産業で人気台の有無と玉の出し方で業績が決まるのではと筆者は考えていたが、実際は、やはり店長次第らしい。

(マルハン:総店舗数二百店舗のパチンコチェーン、二〇〇五年にパチンコチェーンとして始めて売上高一兆円を達成した)

司馬遼太郎が、会社というものは凄いことをするという趣旨のことを書いていたことがある。どういうことかといえば、そもそも人の上に立つということは普通の人にできることではない。にもかかわらず、会社は入社して十年も経つと、あなたは課長だよと言ってリーダーシップを要求するというのである。

これは至言であろう。

確かに人の上に立って仕事をするということは、千人に一人、万人に一人位しかできないことかもしれない。

ビジネスにおいては命までは要求されないと述べたが、これは短期間の目に見える部分だけの話だけで、長い目で考えると、リーダーの影響力は部下の人生を左右している。

最初に付いたリーダーの良し悪しが、その人のビジネス人生を決めるというのは、昔から言われていることである。

こういった観点で周囲を見回した時、良いリーダーが少ないなぁと感じるのは、私だけはないだろう。

いつからこうなったのか?前からこうだったのか?

少なくとも、この、どこに向いて進むべきか判然としない時代、課長クラス(下士官)以下がいかに頑強で狂信的に働いても、経営者が無能であれば、企業の行く末は目に見えている。 「社員が悪くて潰れた会社はない」といわれる所以である。 ;\ls