人は見た目

『人は見た目が9割』という本が、数年前にベストセラーになった。

昔から、人は見た目では判断してはいけない、と言われている。

そう言われているということは、人は見た目で判断されるということであり、この本の主張は、特に目新しいものではない。

見た目が良くて、命まで助かった人もいる。

韓信も、そうである。

韓信は、有名な人物であり、「韓信の股くぐり」や「背水の陣」という多くの逸話が残されている。

これらの逸話は人口に膾炙しており、特に紹介する気にはなれない。興味のある方は、ネット等で調べてみて頂きたい。

韓信は、元々項羽に仕えていたが、献策を取り上げてもらえず、認めても貰えなかったので、嫌気がさして、劉邦の許へ趨った。

しかし、劉邦の陣営でも認めてもらえず、それどころか、あることから罪を得て、処刑されることになった。

いざ、処刑という段になった時、夏侯嬰(かこうえい)という劉邦の古くからの部下が通りかかった。

韓信は、夏侯嬰に、

「天下を取ろうという人が、何故、大切な部下を殺そうとするのか」

と声をかけた。

視ると、立派な容貌をしている。

只者ではないと思った夏侯嬰は処刑を止めさせた。

話を聴いてみると見識もあるということで、劉邦に活用するように推挙した。

これが、韓信が、劉邦軍の中で躍進していくきっかけである。

もし、韓信の見た目が悪ければ、そこで処刑されて終っていたということである。

もう一人、あまり有名ではないが、張蒼(ちょうそう)という、これも劉邦の部下がいた。

背が高く、色白で恰幅が良かったという。

軍律を犯して斬首されそうになった時、王陵という人の目に留まった。

王陵は、後に漢帝国の丞相となる人である。

王陵は、張蒼があまりに美男子であるのに驚き、やはり処刑を中止させた。

張蒼は将軍としての才能はなかった。

しかし、能吏であり、中国史上最高の総理と言われた蕭何(しょうか)を補佐して、漢帝国の礎を築いた。

この他にも、古代から見た目の重要性を物語る逸話は数多くある。

そいった意味で、『人は見た目が9割』であるということに、特に目新しさはない。

しかし、この本は、ある面、素晴らしい本である。

見た目が重要であることは、人だけではなく、本も同じだということを立証したからである。

現代において売れる本は、内容よりも見た目、つまりは題名である。

『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』

『やっぱり変だよ日本の営業』、等々。

うまい題名の付け方だと、感心してしまう。

題名に工夫があるということは、悪いことではない。

問題は、題名以上とまでいわないが、題名に負けないだけの内容を伴っているかどうかである。 私が思うに、人を見た目で判断してはいけないと同じように、本も題名では判断しない方が、やはり良さそうである。 etu