モチベーション

うまくいかなかった原因は特定しやすいが、うまくいった理由を探すのは難しい。

ゴルフでも、ミスショットした時は、あぁ、今スタンスが悪かったとか、打ち急ぎすぎたとか、何となく分かるものである。

しかし、良いショットが出た時は、よく分からない。

分かれば、同じようにすれば、また良いショットが可能になるが、分からないから、いつまでたっても上達しない。

練習場では、ミスショットの原因を修正しようとするのだが、悪いところを直しても、モグラ叩きと同じで、きりがない。

ビジネスでも同じである。

自分の会社で何が悪いかは、大体分かっている。数限りない位あることも分かっている。そして、それをいくら改善しようとしても、なかなかうまくいかないことは、体験的に理解している。

私たちが知りたいのは、成功の因果関係である。何が成功にいたる原因かである。

大きく云えば、ビジネスに限らず、人間は常に成功の原因を見つけようと心血を注いできた訳である。

そういった成功の原因の一つで、最近、よく聞くのがモチベーションという言葉である。

自分自身や、会社でいえば社員をモチベートすることが、成功の原因になるという。

しかし、私はこの考え方には、違和感を持っている。

因果が逆転しているのではないかと、考えている。

確かに、業績が上がっている会社の社員はモチベートされている。昔、リクルートさんのコンサルティングをさせて貰ったことがあるが、他の企業の社員とはそのレベルが一段違うなと感じた。

心理学に情動二要因論というものがある。

一般的に、悲しいという原因があって泣くという結果が生じると思われているが、これは必ずしもそうではないらしい。

泣くという原因があって悲しいという結果が生じるということも、充分起こりうるというのである。

嬉しいから笑うのか、笑うから嬉しいのか、これもどちらもありうる話である。

同じように、モチベートされるから業績が上がるというケースも、業績が上がっているからモチベートされるというケースもありうるだろう。

ところが、最近、色々な企業人と話をすると、「まず社員のモチベーションを上げて・・」といった考え方を聞くことが多い。

それではというので、どうやって社員をモチベートするのかと質問すると、具体的な答えはあまり返ってこない。

そもそもでいえば、マネジメントサイクルの計画→組織化→指令→統制という一連の流れの中での、留意点の一つがモチベーションである。

メンバーに目標を示したり、指示命令したりする時に、ただ単にこれが目標だとか、命令だからとにかくやれではなく、モチベートすることを一緒に考えなさいというのである。

もちろん、これは一つのマネジメント理論であるから、全面的に正しいというものではない。

しかし、具体的場面で考えた時、モチベーションだけを取り出して、それを行う方法論はないのではないだろうか。

さらに、どんな時にモチベートされるかを考えてみると、

納得できる良い仕事ができた時

他者から評価された時

などが、その典型であり、これらは、どちらかといえば「結果」であろう。

最近は言われなくなったが、忠誠心なども同じである。

忠誠心は持たせようとして持つものではなく、結果として持つものであろう。

結局、モチベーションは成功の因果関係の因ではなく果ではないだろうか。因果を取り違えることは、物事を大きく間違えてしまう。そのこと自体が、失敗の原因にもなりうる。

また、モチベーションという格好良いが、大昔にビジネス界で使われた「やる気」ということと同義であろう。

昔は、まずはやる気だ!やる気があれば出来る!やる気がないから駄目なんだ!などと、よく言われたものである。

いわゆる精神論・根性論である。

話は大きくなるが、この精神論・根性論の行き過ぎが、戦略のない馬鹿げた戦争を引き起こし、多くの人命を失わせたことを、日本人は忘れ去ったのだろうか。

話を元に戻すと、変にモチベーションなどということを持ち出すよりも、マネジメントサイクルを徹底するというアプローチの方が、成功の確率は高まるのではと、私は考える。 これはもちろん、上述したように、マネジメントサイクルの過程で、モチベーションを考えることを排除するものではない。 �