『韓非子』人を説得する

人を説得することは難しい。

2000年以上前の人でも、この難しさは同じである。

特に、韓非子は口下手であったということだから、さぞ大変だったであろう。

彼の嘆きを、整理してみた。

そのまま現代でも通用しそうである。

話し方・話の内容 相手の反応
1、滑らかに立て板に水のように話す 話がうまいだけで真実味を感じない
2、丁寧に漏れがないように話す 話下手で話のポイントが分からない
3、事例や比喩を多くして話す 中身がなく実際の役には立たない
4、要点だけを簡潔に話す がさつで面白みがない
5、相手の情に訴えるように話す ぶしつけな奴だ
6、高邁な話をする 誇大で無用な話だ
7、身近で具体的な話をする 下劣な奴だ
8、相手に逆らわずに話をする おべんちゃらを言っている
9、相手が聞いたこともない話をする 嘘つきだ
10、打てば響くように気の利いた話をする きざで生意気だ
11、色々なことを知らない振りをして話す こいつは何も知らない馬鹿だ
12、様々な情報を紹介する 知識をひけらかす奴だ

出典 (明治書院)新釈漢文大系11『韓非子 上』竹内照夫著39頁

難言第三

臣非非難言也。所以難言者、言順比滑澤、洋洋纚纚然、則見以爲華而不實。敦祗恭厚、鯁固愼完、則見以爲拙而不倫。多言繁稱、連類比物、則見以爲虚而無用。揔微説約、徑省而不飾、則見以爲劌而不辯、徼意親近、探知人情、則見以爲譖而不讓。閎大廣博、妙遠不測、則見以爲夸而無用。家計小談、以具數言、則見以爲陋。言而近世、辭不悖逆、則見以爲貪生而諛上。言而遠俗、詭躁人聞、則見以爲誕。捷敏辯給、繁於文采、則見以爲史。殊釋文學以質信言、則見以爲鄙。時稱詩書、道法往古、則見以爲誦。此臣非之所以難言而重患也。

臣非、言ひ難きに非ざるなり。言ふに難む(なやむ)所以の者は、

言順比滑澤(じゅんぴかったく)にして、洋洋纚纚然(ようようさいさいぜん、ししぜん)たるときは、則ち見て以て華にして實ならずと爲さむ。

敦祗恭厚(とんしきょうこう)にして、鯁固愼完(こうこしんかん)ならば、則ち見て以て拙にして倫せずと爲さむ。

多言繁稱(たげんはんしょう)にして、類を連ね物を比(なら)ぶるときは、則ち見て以て虚にして用無しと爲さむ。

揔微説約(そうびせつやく)にして、徑省(けいせい)して飾らずば、則ち見て以て劌(けい)にして辯ならずと爲さむ。

意を徼(むか)へ親近にし、人情を探知するときは、則ち見て以て譖(しん)して讓らずと爲さむ。

閎大廣博(こうだいこうはく)にして、妙遠(みょうえん)不測ならば、則ち見て以て夸(こ)にして用無しと爲さむ。

家計小談にして、具數を以て言ふときは、則ち見て以て陋(ひく)しと爲さむ。

言うて世に近くし、辭(ことば)悖逆(はいぎゃく)せずば、則ち見て以て生を貪って上に諛(おも)ねるものと爲さむ。

言ひて俗に遠く、人聞に詭躁(きそう)せば、則ち見て以て誕と爲さむ。

捷敏辯給(しょうびんべんきゅう)にして、文采(ぶんさい)に繁くせば、則ち見て以て史と爲さむ。

殊らに文學を釋(と)き質信を以て言はば、則ち見て以て鄙しと爲さむ。

時に詩書を稱(しょう)して、往古に道法(どうほう)するときは、則ち見て以て誦と爲さむ。

此れ臣非の言うを難しとし而して重く患ふる所以なり。