『蒙求』勉学の秋

秋の夜長は、本に読むのに適し、勉強するのに適している。

古来、学問に励んだ人の逸話は多い。

最も有名なものは、孫康(そんこう)と車胤(しゃいん)であろう。

二人とも貧しく、灯りのための油を買えなかった。

孫康は、雪明りで学び、車胤は蛍の光で書を読んだ。

有名な蛍の光、窓の雪である。

しかし、貧しくて苦労した人は、これだけではない。

王充(おうじゅう)という人は、書物を買う金がなかったので、洛陽の街の本屋に行き、立ち読みした。記憶力に優れ、一度読んだ本は全て覚えたという。

孫文宝という人は、柳の葉を編んで紙の代わりにして、書物を書き写したという。

温舒(おんじょ)という人は、水辺の蒲を切り取って、やはり紙の代わりにした。

徳潤という人は、書物を書き写す仕事で金を稼ぎ、筆や紙を買った。また、書物を写すたびに、その内容を暗記した。

さらに、貧しさとは関係ないが、勉学の凄さで有名なのは、前漢の大学者、董仲舒(とうちゅうじょ)である。

この人は、およそ三年間、書斎にこもり、自宅の庭や畑を、窺い見することもなかったという。

さらにさらに、江戸時代、川柳になった人もいる。

一人は、匡衡(きょうこう)という人である。

やはり貧しく、壁に穴を開けて、隣家の明かりで学んだという。

「匡衡にとなりの夫婦度々見られ 柳多留45」

もう一人は、孫敬という人で、この人は、常に戸を閉め切って学んだため、閉戸(へいこ)先生と呼ばれた。

孫敬が散歩に出ると、村人は珍しいことだと、驚いたという。

また、眠気を遠ざけるために、首に縄をまいて天井の梁に繋げたという。

「うろたえた弟子が閉戸を抱止める 柳多留119」

という川柳がある。 以前にも書いたが、こういった川柳を聞くと、いつもながら江戸庶民の教養の高さに驚きを感じる。