『荀子』逆命利君

この記事のタイトルは、小説の題名にもなり、一時、流行った。

「逆命利君、これを忠と謂う」

響きも簡潔で勇ましい。

ただ、この言葉だけだと、

「上司の命令にさからっても、上司のためになるようにする、これこそが忠である」

という風に、受け取られやすいのではないだろうか。

上司にさからう人物こそが、立派な人物というイメージになる。

また、そうであるからこそ、流行ったのであろう。

この言葉は、『荀子』に出てくる。

ネットなどでは、劉向の『説苑(ぜいえん)』が原典だと出ているが、『説苑』は劉向の抜書き集のようなものである。

詳しく調べて訳ではないが、『荀子』の方が原典なのではないだろうか(間違っているかもしれないが)。

ただ、どちらを読んでも、書いてあることに違いはない。

大切なことは、上司や組織の利益になるように行動することが、大事だということである。

そのためには、場合によっては上司にさからうし、場合によっては上司の命令通りに動くことが重要だという。

さからうのか従うのかは、手段である。さからうから善いというものでもない。

要は、黒いネコでも白いネコでも、ネズミを捕るネコは良いネコなのである。

ただ、上の命令にさからうことは、従うよりも難しいことは、確かである。

その意味で、自分を犠牲にしてでも、上司や組織のことを考えなさいと、説いている。

「逆命利君」という言葉を好んだ人は多かった。

しかし、その人たちは、ただ単に上にさからうことはカッコいいというイメージで、好んだのであろう。

上司の命令に素直に従うからといって、それだけでその人が上に諂っているとは言えないし、さからうからといって、特に立派な訳でもない。

大事なことは、自分の利益を考えるのではなく、全体の利益を考えているかどうか、要はここに尽きるのである。

出典(明治書院)新釈漢文大系5『荀子 上』藤井専英著 376頁

巻九 臣道篇第十三

從命而利君、謂之順、從命而不利君、謂之諂、逆命而利君、謂之忠、逆命而不利君、謂之簒、不卹君之栄辱、不卹國之臧否、偸合苟容、以持祿養交而已耳、謂之國賊。

命に從ひて君を利する、之を順と謂ひ、命に從ひて君を利せざる、之を諂(てん)と謂ひ、命に逆ひて君を利する、之を忠と謂ひ、命に逆ひて君を利せざる、之を簒と謂ひ、君の栄辱を卹(かへり)みず、國の臧否(ぞうひ)を卹(かへり)みず、偸合苟容(とうごうこうよう)して、以て祿を持し交を養ふのみなる、之を國賊と謂ふ。

出典(明徳出版社)中国古典新書『説苑』高木友之助著 66頁 從命利君、謂之順。從命病君、謂之諛。逆命利君、謂之忠、逆命病君、謂之亂。君有過不諫諍、將危國殞社稷也。