『箸休め』パラダイム

生きているのに自分は死んでいると思い込んでいる男がいた。

家族は困り果て、男を精神科医の元へ連れて行った。

精神科医は色々と考え、まず、男に生きている人間は血を流すが、死んだ人間は血を流さないということを、根気強く教えた。

ようやく、男が死人は血を流さないということを納得した後、精神科医は言った。

「では実験をしてみましょう」

精神科医はピンで男の指先を刺した。

男は驚愕した。「何てことだ!」

精神科医は笑みを浮かべて、「分かりましたか?」

男は、「えぇ、私は間違っていました。死人でも血を流すんですね」

自分は死人であるというパラダイムがある限り、彼が見た事実は「死人が血を流した」ということになる。

同じように、事実ではなく、パラダイムによって物事を解釈する例として、

ナチス時代のドイツで、ある日、動物園のライオンが逃亡した。ライオンは、たまたま通りすがりの少女に襲いかかろうとした。

あわやという瞬間、勇敢な若者が身を挺して少女を救った。若者の行為は当然賞賛され、新聞の取り上げるところとなった。

ところが、その若者がユダヤ人であることが分かった。そして、出た新聞の見出しには、 「ユダヤ人、無抵抗のライオンを虐殺!」