『戦国策』敵を攻めるチャンス

人と人の関係であれば・・・、

相手が親切にしてくれば、こちらも親切を返すし、相手が強硬であれば、こちらも、負けるものかと頑張るのが常である。

しかし、国と国との関係は、そうでもないらしい。

敵国が柔軟になりへりくだってきた時、相手が助けを求めてきた時こそ、相手を攻めるチャンスだという。

権謀術数すぎる感が否めないが、現実に即した一つの知恵であること間違いないだろう。

義渠(ぎきょ、西戎の一種、儀渠とも。今の甘粛省涇州の地。辺境であり、秦に接している)の君が魏にきた。

公孫衍(こうそんえん、魏の策士)が言うには、もう会うこともないので、中国の情勢を伝えよう。諸侯が秦に対して敵対しなければ、秦はあなたの国を攻め取るだろう。

もし、諸侯が秦を攻めれば、秦は丁重な貢物をしたてて、あなたの国の機嫌をとるだろう、と。

しばらくしている内に、楚・斉・韓・魏・趙の五国が秦を攻めた。秦は多くの贈り物を義渠の君に送った。

義渠の君は、これが公孫衍の言ったことかと、軍をだして秦を襲い勝利を収めた。

出典 新釈漢文大系『戦国策 上』133ページ

秦巻第三

義渠君之魏。

公孫衍謂義渠君曰、道遠、臣不得復過矣。請謁事情。

義渠君曰、願聞之。

對曰、

中國無事於秦、則秦且燒焫獲君之國。中國爲有事於秦、則秦且輕使重幣而事君之國也。

義渠君曰、謹聞令。

義渠(ぎきょ)の君、魏に之く。

公孫衍(こうそんえん)義渠の君に謂つて曰く、道遠くして、臣、復(ま)た過(よぎ)ることを得じ。請ふ事情を謁(つ)げん、と。

義渠の君、曰く、願はくは之を聞かん、と。

對(こた)へて曰く、

中國、秦に事なくんば、則ち秦、且(まさ)に燒焫(しょうぜつ)して君の國を獲んとす。中國、爲(も)し秦に事あらば、則ち秦、且(まさ)に輕使重幣(けいしちょうへい)もて君の國に事(つか)へんとす、と。

義渠の君曰く、謹(つつし)んで令を聞かん、と。